日本人初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹博士を育てた父の教え 「学校の席次のための勉強などは、最も愚劣」
将来賢くなる子は「遊び方」がちがう③
『将来賢くなる子は「遊び方」がちがう』(KKベストセラーズ刊)の著者・松永暢史先生に、世界で活躍する人材を育て上げた、ある有名な家庭の教育方針を紹介してもらいました。
◆勉強を押しつけても子どもは幸せになれない
親は誰しも、子どもの幸せな未来を願っています。塾に通わせたり、「勉強をしなさい!」と口うるさく言ったりするのは、ひとえに幸せになってほしいからこそ。その気持ちはよく理解したうえで進言します。
押しつけや強要では子どもの能力は伸びません。それどころか、未来に輝くであろう可能性さえつぶしてしまうこともあるのです。もし、本当に幸せを願うのであれば、子どもがやりたいことをやらせてあげること。親はただ見守って、助けを求めてきたときにだけ手を差し伸べてやればいいのです。
「わかっているけれど、黙っていられないのよね」という親御さんには、世界的芸術家である3きょうだいを生み出した千住家の子育てをご紹介したいと思います。
◆世界的芸術家を生み出した千住家の教育方針
長男の博氏は日本画、次男の明氏は作曲、末娘の真理子氏はヴァイオリンといずれも芸術の道を極めた千住家の教育方針は、まさしく子ども本位です。
母の文子氏が記した『千住家の教育白書』(新潮文庫)には、子ども部屋の壁いっぱいにクレヨンでお絵描きをしても止めることはなく、あるときは書斎の机の裏側までキャンバスになったというエピソードが綴られています。
工学者で慶應義塾大学名誉教授の父、鎮雄氏は、勉強の押しつけを徹底的に嫌ったといいます。勉強を教えてやってほしいという妻の文子氏に対して、「家で子どもの勉強を助けてそれで学校の成績が上がっても、本人のためにならない」と諭したそうです。
とりわけ印象深いのは、「一番好きなことをやらせるのが一番伸びるのだよ。興味を持って集中させること以外に、子どもを伸ばす方法はない」という言葉です。
子どもが自分で興味を持って始めたことを、思い切り自由にやらせる。それが、子どもを伸ばす一番の方法だという鎮雄氏の考えは、世阿弥が「風姿花伝」で説いていることや、モンテッソーリ教育の理念にも通じています。
実際、学者になってほしいと願う母の意に反し、長男の博氏が東京藝術大学を受験したいと言い出したときには、「本人が望むことが一番いいんだ」と鎮雄氏は一切反対せず、息子に厳しくも温かい励ましの言葉を贈っています。
もし、そこで反対をしていたら、世界を感動させた名画「ウォーターフォール」も、大徳寺聚光院(じゅこういん)の壮大な障壁画も生まれなかったかもしれないのです。
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